幕は落ちない。
解体はまだ途中だ。
欲望は肉ではなく言語の繊維に宿る。
客席に座るあなたの鼓動はチケットの裏面、
心拍数が上がるたびに数字が更新される。
EXITサインは光らない。
なぜなら出口は最初から設計されていないから。
ここでは恋人も家族も思想も、
全部皮を剥がれた欲望の断片として
銀の台に並べられる。
拍手が聞こえるたび、
その断片は誰かの名前とすり替わる。
舞台中央に置かれるのは鏡。
そこに映る自分の顔が最後に解体されるプログラムだ。
まだ笑えるか?
まだ愛せるか?
まだ生きたいと思えるか?
欲望はあなたの味方ではない。
それはただの審判。
触れた瞬間に、
あなたの存在理由が採点される。
演目②|自己肯定感という火薬庫
ステージ中央に置かれたのは心臓に似た黒い装置。
脈打つたびに「まだ俺はイケる」という声が漏れる。
これが性欲と直結した自己肯定感の心臓部。
第一刀──
「触れたい」という衝動を切り離す。
観客席の誰かが一瞬、呼吸を止める。
その隙間に「触れられたい」という欲望を別のガラスケースに封じ込める。
火薬と導火線は分離された。
にもかかわらず空気はすでに爆発の予感で膨張している。
第二刀──
切り離されたはずの二つが互いを求めて軋み合う。
ガラス越しに叩きつける衝動は「存在を証明してくれ」の叫びに変わる。
観客は笑えない。
なぜなら舞台上の臓器は自分の胸で暴れているのと同じ鼓動だから。
第三刀──
「欲されたい」という欲望を観客席にばらまく。
一斉に伸びる視線。
誰もが奪い合うように欲望の断片を手に取る。
その瞬間全員が気づく。
自己肯定感なんて自分の中に存在しない。
いつだって他人の欲望にぶら下がって揺れているだけ。
舞台照明が赤く点滅する。
──爆発ではない。
すでに解体され尽くした結果、
残ったのは「自分で自分を証明できない」という空洞だけ。
(上演終了)
観客は立ち上がれない。
肺に残ったのは清楚幻想の匂いと自己肯定感の燃えカス。
次に切開される臓器が何かを知りながら誰も退場できない。
TO BE CUT OPEN.
Night Empire Journal|欲望の解体ショー
──この幕は閉じない。