白い壁、木の棚、均一な照明。
音はBGMでもなく空調のさざめき。
誰も笑わない静謐な楽園。
ここで欲望の手術を始めよう。
観客は全員、買い物かごを持ってる。
舞台はディスプレイ。
刃物は値札。
拍手の代わりにバーコードの音。
最初の展示は「ミニマリズムという欲望」。
何も持たないことに酔う快感。
手放すたびに
欲望がくっきりしていく。
持たないために買う。
削ぎ落とすために選ぶ。
それがこの時代の祈りのかたち。
次の演目「清潔の幻影」。
真っ白な世界に
人は汚れない安心を求める。
完璧な白ほど脆い。
触れた瞬間に世界が破れる。
清潔とは
汚れを恐れるふりをした官能
触れられない白は誰よりも_
三幕目「他人の生活を想像する棚」。
カップ、ノート、リネン。
それぞれが穏やかで正しい日常の幻影を売っている。
買うのは物じゃない。
「変われる気がする自分」そのものだ。
レジを通すたびに
誰もが一瞬、別の人生の通貨を手に入れる。
そして〈静熱転位〉
(温度が下がる音)
欲望は汚くも尊いものでもない。
ただデザイン途中の感情。
洗練されるほど
生の匂いが抜け落ちる。
それでも人は
滅菌された夢の中で「まだ足りない」と呟く。
その声こそ
いちばん人的な雑音。
ラストシーン。
店内の風が紙袋を揺らす。
値札が静かにめくれる。
「この欲望、返品できますか?」
店員は微笑んで言う。
「返品は一度まで可能です」
──その言葉に誰かの人生が映る。










